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マネジメントを正解に導く?IBM『Kenexa』が示すコグニティブHR Techの正体

お相手: 民岡 良さん
日本アイ・ビー・エム株式会社ソーシャル事業部インダストリー営業部シニア・ソフトウェアセールス・スペシャリスト。世界最大のHR Technology Conference & Expo2016にも参加。

ども。中村です。以前にデジマラボでも紹介したIBMの大本命HR-Tech『Kenexa』。皆様覚えてますでしょうか?

Watson連携で各スタッフのスキルやステータスを可視化、予測することで面接や育成のコストを大幅に下げるとかなんとか…。てな話だったんですが、実は僕らもイマイチ全貌がよくわかっていなかったんですね。

が、なんと今回はそのIBMから直接お呼ばれしまして。これはチャンス!とばかりに直球でアレコレお話をうかがってきました。(※今回長いのでインデックス付けときました)

Watson搭載で「予測の先の行動」を提示するKenexaのサービス設計

まずはお呼びいただきありがとうございます。さっそくですが、イマイチ全貌がわからないKenexaについてお話をうかがってもよろしいでしょうか?

―民岡
確かにちょっと分かりにくいですかね(笑)何しろ一言に『Kenexa』と言ってもその機能は非常に多岐に渡っていまして。
「何ができるのか?」から製品を紹介しようとするとかなり情報量が多くなってしまうんですよ。

そう言って民岡さんが示してくれたKenexaファミリー?とでも言うべき製品群は以下の通り。(といってもこれでも主要なものだけを抜粋してる状態ですが)


ちなみにKenexaファミリーから派生して「Cognitive HR」というコンセプトに当てはまるものについては、「Watson Talent」というブランドに分類されることになったそう。…余計ややこしいw

以前のデジマラボ記事でも紹介した、スタッフの企業に対するエンゲージメントを測る『Employee Voice』、自然言語によるWatsonとの対話から具体的なキャリアパスをユーザーに示してくれる『Career Coach』

採用管理の基幹システムとなる『Talent Acquisition Suite』に、Employee Voiceで取得したサーベイデータから様々な人事データとの間の相関関係を分析 ⇒ 「この人このままいけばこんな感じになるかも」「売上成長率を上げるためにはどの課題に最優先で取り組むべきか」という未来予測分析や現状の分析が可能な『Talent Insights』などなど。

なるほど確かに。ここまでHR領域を網羅する機能を搭載していたら、そりゃ説明は難しいかもですね。ガーッと一息に紹介されても、大抵の場合「なるほど大体全部できるんだな」で脳みそフリーズしそうです。

―民岡
ものすごく分かりやすく言うと Kenexa / Watson Talent は、様々な人事業務(採用・評価・育成等)の中で、担当者レベルの頭の中に眠っていた巨大なデータ(暗黙知)を可視化。そこからの予測と、予測に基づいたマネジメント層への行動指針提示をやってるんです。

そのデータを取得するために、例えば従業員に対するアンケート作成・収集・分析を担う『Employee Voice』があり、結果を可視化して具体施策に落とすために『Talent Insights』やサーベイツールに付属するアクションプラン生成機能がある。といった感じですね。

なるほどなるほど。

ん? 予測に基づいたマネジメント層への行動指針提示?

て、つまり『こうやったほうがいいよ』みたいな所までKenexaは指示してくれるんですか?

―民岡
そんな感じですね。あくまで一例ですが、『Employee Voice』からの実際の流れは以下のような感じになります。

まず目的別にセットされた質問文テンプレートを選択。もしくは『新しく質問を作る』を選択 ⇒ スタッフに聞きたい内容をカテゴリから選ぶと、いくつかの質問文候補が生成されるのでこれをクリック…と。

手順自体はいたってシンプル。

ぶっちゃけこの手のツールは『何を社員やスタッフに質問すれば有効な回答が得られるんだろう?』って設計が一番難問だったりするんですが、Kenexaの場合そこをIBMの培った30年超の研究結果+Watsonによるサジェストでシンプルに解決してるんだとか。

で、出てきた結果は上記のような画面でゴリゴリ分析可能。

ここまではまぁHR-Tech系ツールでは割とよくある構造なんですが、ここからが IBM Kenexa の真骨頂。

長年の産業組織心理学に基づく研究成果を用いた、Cognitive なパワーを見せてくれます。

サーベイ(つまり有効なアンケート)結果に基づき、あらかじめ定義された具体的なマネジメントアクションの提示を行ってくれるんです。

  1. 改善すべき項目を選択すると
  2. Kenexaが世界中のベンチマークから研究された『効果があると予測されたアクションプラン』を提示
  3. どのアクションから着手するか?を選択すればOK
  4. リストはそのままマネージャーにとってのタスクリストになる…と。

もちろんサーベイ結果のWatsonの分析機能連携も可能。なので、マネージャータスクの管理や、行動結果と人事データの相関関係洗い出し…なんて事もカンタンらしいです。

なにこれすごい。てか、怖い。

―民岡
どれだけ実績のある改善施策であっても、チームの構造・状況によっては実現が難しいケースがあります。
なので、Kenexaは例えば『来週中に全メンバーと15分のオフラインのミーティングを個別で設ける:話題推奨○○…』なんて施策アドバイスを出しますが、それを今やるか?後でやるか?スルーするか?を決めるのは人間のタスクとしているんです。

やる!ときめるとその進捗や効果などがモニタリングされ、可視化が難しかったマネジメント業務を評価できるようになるイメージですね。

はあぁ。。。さすがIBM。

なるほどこれは確かに『予測(Predictions)』の先。『規範指示(Prescriptive)』ですね。

いままでは経験による判断…ていうかもはや勘頼みなとこがあった人事マネジメント領域において、業界標準データやベンチマークなどの分析結果を適用。

「何やればいい結果がでやすいのか?」をタスクにしてくれるってのは凄まじい革新ですね。

従業員と応募者、マネージャー全ての体験をデザインする

―ここまでできるようになっていたとは…。正直驚いていますが、最新のHR-Tech領域ではもう普通の事だったりするんでしょうか?

―民岡
ですね。つい先日 HR Technology Conference & Expo にも参加しましたが、どこも Employee Experience(従業員体験)Candidate Experience(応募者体験)の向上に躍起になってる印象でした。

新規採用には大きなコストがかかる。だからそのコストを極力下げつつ既存スタッフには長くいて欲しいという事になる。

そうなれば当然、「どんな体験を提供すればいいのか?」という課題に直面し、それを解決するためのデータをどう取得しどうアクションするか?を、どこも求めていくことになるんですよ。

言われてみれば「そりゃそーだ」な話なんですが、これは言い換えればこれまで不可能だったその辺のデータを取得する方法なり技術なりが発展し、ついに取得(≒データドリブンな改善施策)可能になった。ということ。

例えばWatsonと連携した『Watson Career Coach』であれば、音声やテキストでスタッフが投げかけた愚痴やボヤキに対し、以下のような感じで超具体的なアドバイスを返せるようになってるそうです。

民岡さんに聞いたWatson Career Coachのやり取り例

※HR Tech2016のデモより。正式リリースは2017年1月以降だそう

―スタッフ
2年後には■■の部長になって○○にチカラを入れたいんだよ。でも、実際そんな仕事任せてもらえないし…正直迷ってるんだ。
―Watson
■■部署の場合、社内評価においてあなたの上に位置する人材がまだ○人います。そのため、あなたが■■の部長クラスに上がるには、正確には2年ではなく5年以上が必要です。○○の仕事がしたいのであれば、□□部署への異動願いを出してみてはいかがでしょうか?チャレンジングではありますが、可能性は広がるはずです。

嬉しいような恐ろしい様な…。

若干気持ちは複雑ですが、データ的に見てより自分のやりたいことを求められる短縮ルートが存在し、それを上手いこと活かせるなら。。。確かにEmployee Experience(従業員体験)は上がっていくはずですよね。

このアドバイスを正確に人間がやるってのは…まぁ…。難しいというか、残念ながらほぼ不可能ですし。

1次面接は動画でOK?コグニティブ化が進む採用フェーズ

―民岡
世界的に見ると、最近はEmployee Experience だけではなくCandidate Experience(応募者体験)の方面でもかなり進化が進んでいます。
例えば、最近米国で盛り上がっている『HireVue』など。

これは Candidate(応募者)に自身をアピールする動画を緊張しにくい自宅で撮ってもらい、採用面接の1次フローに使う…。というものなんですが、これをKenexaと連携させることで大きな変革が起きようとしています。


一次面接を動画で行うというHireVue。Kenexaとの連携も、欧米地域では既に多くの実績があるそう。
―民岡
HireVueで撮影した動画を応募者から企業側へ送信。
企業側でその回答内容の評価を行い、評価結果やスコアの数値情報がKenexaに連携されます。

さらに将来的には、人工知能が動画内の声色や顔色、表情などを分析し、『自社に合った人材か否か?』などを判断できるようになっていく予定です。
公平性を保ちつつ、企業側と応募者側の双方にコストメリットがある新たな面接手法ですよね。

なんと…動画の分析までされるようになったら完全にSFの世界ですが、そこまで行かなくても現状の機能でも面接セッティングの手間や面接担当・応募者両方の心理的、時間的負荷を最小限にできますね。。。

これにさらに、今後リリースされる予定(2017年1月以降)だというレジュメ自動読み取り&ポジションマッチング予測機能を備えた『Watson Recruitment』が組み合わせれば…。

もう採用時の手間や応募者のイライラって体感半分くらいにできるんじゃないでしょうか…。すごすぎです。

日本式「人事」が抱える課題と世界的なトレンド

―最新動向の凄まじさはふわっと理解できましたが、例えば「世界と比べて日本ここやばい」みたいな、日本の人事が抱える課題などはあったりしますか?

―民岡
そうですねぇ…。日本企業に限った話では無いのかもしれませんが、ある程度課題の傾向はありますね。

効率重視の組織、成果主義、終身雇用、即戦力重視、アウトソーシングなど。要するに人事部門が『目先の結果』にとらわれすぎてしまったことにより、組織全体の求心力や人材の潜在力への関心、創造性、長期志向などが弱くなってしまっているんですよ。

結局の所、あらゆるイノベーションは人の創造力によって生まれるものなので、上記のような状態では起こしにくくなってしまうんですね。

今はまさに、このイノベーションをいかにして起こすかが、企業の存続や成長の鍵を握っているというのに。。。。

うーーーーむ。まぁ、長く不況が続きましたもんね。。。

すぐに成果を出さなければ来年潰れるかもしれない。てな状況の中で、何の(データ的)根拠もなく貫き通すのは確かに難しいですし、ある種どうしようも無いような気もしますが。

だからこそ、「こうすればこうなる」というデータ収集と解析が可能になった今、Kenexa / Watson TalentをはじめとしたHR-Tech領域にこれだけの興味と感心が集まっている。ということなんでしょうね。

―民岡
ですね。だからこそIBMは今、データ収集と分析、予測、そしてその先の規範提案(Prescriptive)のために欠かせないコグニティブ・コンピューニング(膨大なデータを理解・推論し継続的に学習するテクノロジー)に力を入れているんです。

30年以上IBMが集積してきた企業と従業員の産業組織心理学的な研究データが示す「過去からの知見」と、Watsonが示す「現在データから予測される未来の行動指針」をどう結びつけて活用するのか。

これからの人事に求められる、必須の観点としていきたいですね。

インタビューを終えて:中村の編集後記

現状、多くの…というかほぼほとんどの企業において現場のマネージャーさん達は忙殺されています。もうそれは大手だろうと中小だろうと関係なく。

だって面接一つ、評価一つとってもとんでもない手間がかかっているのに、その上チーム内のコミュニケーターとしての役割や、時にサポート、時に実務に従事しなくちゃいけないんですもの。もうこれはしょーがないよね。。。

と、上記のように思っていた自分を恥じました。それはもう恥じました。

手間がかかる部分があるなら、それを何とかするのがテクノロジーだ
自動化した先でマネジメント層の「考える時間」と「思考のヒント」つくればいい
その先にこそようやく本来の意味でのマネジメントは可能になるはずだ

Kenexa / Watson Talent、そしてHR-Techに関する民岡さんの言葉全てに、そんな意思がビシビシ込められているのを感じ、一応はマネージャー層の一人として仕事をしている僕自身 ハッと目が覚めたような感覚でした。

HR-Techは単なるコスト低減のための話じゃない。

マネージャーのクビを切るための技術でもない。

人間がより人間らしく、効率よく働くための「考える時間」を生み出すためのムーブメントなんだなぁと改めて認識しました。

民岡さん、IBMの皆さん、お忙しいなかありがとうございました!


Kenexa / Watson Talent…導入しようかな。。。お値段ここには書けないですけど、パルスサーベイ(Employee Voice)だけなら思ってたよりずっとライトに導入できるらしいですし…。

中村 健太 by
数多くのメディアコンサルとコンテンツクリエイティブに関わってきた経験を持つ株式会社ビットエーのCMO。KaizenPlatformのグロースコンサルとしても知られ、2014年より一般社団法人日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に「Webディレクターの教科書」「Webディレクション最新常識」など。